解雇権濫用法理

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こんにちわ、コウです。
前回は労働審判について簡単に説明させていただきました。

労働審判で解決できる労働問題には、不当解雇・雇止め・残業代未払い・不当な減俸・セクハラなど色々ありますが、筆者の場合は雇止めでした。
なので今後は、こちらに関連するものを中心に記事にしていく予定です。

※雇止め・・・使用者が有期契約の労働者に対し、期間満了として労働契約の更新を拒否すること。契約社員、派遣社員、嘱託社員、パート、アルバイト等は大抵こちら。


よく「正社員は無期契約だからクビになりにくくて、それ以外は契約打ち切りがあるから雇用が安定してない」なんて言われたりしますが・・・これって見方によっては違うみたいなんですよね。
有期契約だからといって、無期契約の人より簡単に辞めさせられるというわけではないんです。

それは、労働者の権利を守って不当解雇・雇い止めを制限している法律をご覧いただくと、ご理解いただけると思います。

今回はその辺をざっくり説明していきたいと思います~。


1.労働契約法

日本では、労働契約法において解雇・雇止めに関するルールが定められています。
こちらがいわゆる解雇権濫用法理と呼ばれているもので、最高裁での解雇無効判例が積み重なった結果、平成16年1月1日施行というかたちで明文化されました。

労働審判の審理でもこちらの法律をもとに「無効だ」「有効だ」と主張していくので、めちゃくちゃ重要です。
内容を一部引用してみました。

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす

 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128



・・・「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」って何じゃい?



って事なんですが、意外と法律ってフワッとしてる臨機応変に対応するためか、どういうのが合理的かっていうのははっきり書かれていないんですよね。

なので、多少担当する裁判官の判断に委ねられている部分もあって、結構ドキドキだったりします。


コウ
コウ

変な裁判官に当たっちゃったら恐ろしい・・・




第19条の各号については、4でまた詳しく解説します。

2.客観的に合理的な理由とは

とはいえ、どんな事情があったら解雇(雇い止め)が合理的だと判断されるかは、ある程度傾向としてあるようです。

まず解雇の種類として普通解雇整理解雇懲戒解雇があります。

  • 普通解雇・・・労働者の性質(能力不足、勤務態度、病気や怪我など)が原因の解雇。
  • 整理解雇・・・会社の業績・経営状況の悪化が原因の解雇。(いわゆるリストラ)
  • 懲戒解雇・・・労働者の重大な違反行為などが原因の解雇。


おそらくほとんどの方は、筆者と同じ普通解雇で争っているのではないでしょうか。
それっぽい理由が並んでいますが、解雇の前に十分な教育・注意指導・休職などの段階を踏まなければ、このような理由での解雇(雇い止め)は認められません。

また以下のように、禁止されているものもあります。

<労働基準法>
業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇

<労働組合法>
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇

<男女雇用機会均等法>
労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇

<育児・介護休業法>
労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html


整理解雇の場合、会社は合理的な理由として以下の条件をすべて満たす必要があります。
ただ漠然と「経営が悪化したから・・・」では、解雇は認められません。

・人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること

・解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと

・人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること

・解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html


懲戒解雇はパワハラ・セクハラ・犯罪行為などによって信頼関係が損なわれてしまった等で行なう解雇ですが、それでも前段階としてけん責・戒告、減給・降格、出勤停止、諭旨解雇など、より軽い処分を経る必要がありますし、理由が軽い場合は普通解雇になるみたいです。


3.解雇予告と解雇理由

自分がどれに当たるのかは、解雇・雇い止めの手続きではっきりさせることができます。
労働基準法では、ちゃんと労働者に対して適切な退職手続きをさせるためのルールが定められています。

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。


解雇をする場合、一ヶ月前には予告をする。しないなら解雇予告手当を会社が支払う。労働者が理由証明書を請求したら早急に交付する。・・・という感じですね。

雇い止めの場合は、以下条件のいずれかに当てはまれば予告義務が生じます。

①3回以上更新されている
②1年を超えて継続して雇用されている

解雇(雇い止め)理由証明書をもらうことで、どんな理由で解雇(雇い止め)されたのかを断定することができ、労働審判でも会社はこれ以外の理由を主張できなくなります。
会社を追い出された後でも請求できます。

何かと理由をつけて発行を拒否される場合もありますが・・・少なくとも口頭で解雇の理由を尋ねれば会社も何かしら答えるかと思いますので、それをメモや録音で残しておきましょう
(ちなみに雇い止めの場合、「契約期間満了」という理由は認められていません。)

解雇理由を全く明かさないなんて会社もあるかもしれませんが・・・まぁ労働審判を申し立てられたら必ず示さなければならないものですし、いずれ明らかになるかと思います。


コウ
コウ

まずは解雇(雇い止め)の理由をはっきりさせましょう~


4.社会通念上相当とは

解雇(雇い止め)理由がわかったら、今度はその程度を見ていきます。

いくらそれっぽい理由を会社が主張しても、あまりに軽微だったり、こじつけのようなものだったりしたら、解雇(雇い止め)はやっぱり認められません

法律事務所HPや過去の判例を見ていただくとわかるのですが、よっぽど酷い状況でなければ解雇は無効になることが多そうです。

勤務態度で言ったら、上司の注意を無視して勝手に帰宅するとか、そのくらいな感じです。
改善の余地があるかどうかってのが、結構重要ポイントのようです。

冒頭でも有期契約だからといって無期契約の人より簡単に辞めさせられるというわけでもないとお伝えしましたが、「ミスが多いからクビね」なんて言うのは、契約社員でもアルバイトでも通用しないよって事ですね。


ちなみに「ミスが多い、無愛想で評判が悪い、成績もちょっと悪い」という風に、ちょっとずつつまみ食いみたいな感じで解雇(雇い止め)理由を出してくる会社もあるかもしれませんが、こちらも無効のようです。

数を並べれば有利になると考えて、労働者の些細な欠点・失敗をあげつらう会社が多く見られます。 「ちりも積もれば」というものではないので、こちらとしてはあまり怖くありません。 会社の実害はどれぐらいあったのですか?と返しておけば大抵は十分です。

https://www.kajihiroshi.net/dismiss/inefficient.html



じゃあ有期が無期より辞めさせられやすいとされているのはどういう理由で?って事なんですが、おそらく労働契約法 第19条の「有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するもの」という部分が関わってるのかなぁと思います。

 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128


通算契約期間はどのくらいか、無期の人と比べて業務内容や裁量に違いがあるかなどが判断材料にされるので、契約期間が短かったり仕事内容が限定的だったりすると不利になってしまうみたいです。
逆に長くお勤めの方だったり、正社員並みの仕事をこなしていた方だった場合には、無期の人と同程度の雇い止め理由が必要とされるので、雇い止め無効になる可能性は高いと思います。


どのような状況なら雇い止めになるかという資料が厚生労働省にもあったので、こちらも載せておきます。(平成20年とちょっと古い資料のようですが。)
この辺はなかなか複雑そうなので、詳しくは弁護士さんに直接ご相談くださいね。

厚生労働省リーフレット「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf


判断要素


契約関係の状況・雇い止めの可否


5.判例を検索してみよう

ちなみに、どんなものが有効無効になるかという傾向を見るために、裁判所HPの裁判例検索を利用するのもおすすめです。
労働審判と訴訟では少々違う部分もあるとは思いますが、裁判官がどういう事例でどういう判決を下しているのか見ることができますよ。

解雇や雇止めなら、全文検索のところに「地位確認」「雇止め」と入力すると、判例がたくさん出てきます。

①裁判例検索トップ


②全文検索のところに「地位確認」と入力して、検索ボタンを押すと


③全国各地の地位確認請求事件の判例が出てきます!


あとは普通に検索エンジンなどで、「雇い止め 能力不足 判例」とかでググると出てきたりします。
法律事務所HPなどでも結構紹介されてたりするので、そちらもチェックすると良いかもしれませんね。

※ちなみに法律事務所HPとかでは「明石書店事件」「日立メディコ事件」というふうに固有名詞で載っていたりしますが、裁判例検索では固有名詞は伏せてあるので、日付や事件番号で検索しないとヒットしません


証拠集めに使用するメモ帳とボイスレコーダーとペン


東京地方裁判所

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